ハタラクノベル

それでもボクには夢がある【ハタラクノベル】

 

ボクには夢がある――
その夢を忘れないために、こうして日記を始めてみた。
いざ始めてみると何から書いてみたらいいか分からない。
ボクの夢は誰かを幸せにすることだ。

 

 

 

ボクの夢は漫画家だ。
今日は、遠く離れた東京の出版社に自分の描いた漫画を持ち込んだ。
「流行りとは違うけど、悪くはない」と言われた。
長年の努力と行動の勝利だった。これで報われる。

 

 

 

ボクの夢は胸が熱くなるような漫画を描くことだ。
今日は、先日の編集者の指摘通りに、最近の流行りに沿った漫画を考えてみた。
でも……どうしても、幼い頃に読んだ「友情・努力・勝利」の少年漫画が、大人になった今も脳裏から離れない。
これだけは残しておこう。ボクの描きたい漫画はこの他にないのだから。

 

 

 

ボクの夢は漫画を描き続けることだ。
今日は、いつも通りに家を出て、会社に出勤した。
漫画を描くためには、まずしっかりと生活をすることが重要だ。
絵を描くこととは違うし、やりがいもあるわけではないが、今はしっかりとこなしていこう。

 

 

 

ボクの夢はどんなことがあっても漫画を描きあげることだ。
今日は、休日に崩した体調が治らず、会社を休むことにした。
早く治そう。そして、漫画を描き上げよう。下書きは出来ているし、担当からのGOサインも出ている。
明日から仕事を再開する。ここが踏ん張りどころだ。あともう少し頑張ろう。

 

 

 

ボクの夢はしっかりと与えられた仕事をこなすことだ。
今日は、仕事が上手くいかず、取引先に迷惑をかけた上、上司に叱られた。
改善しなければならない。このままでは、何の成果も上げられずに周りに迷惑をかけるだけだ。
今はとてもではないが、漫画を描いている場合ではない。仕事に専念しなくてはならない。

 

 

 

ボクの夢は誰もが面白いと思う漫画を描くことだ。
今日は、ようやく来た休日だった。疲れた身体に鞭を打って、震える手を動かす。
漫画を描いたのは久しぶりで、ストーリーラインに違和感を抱きつつも、期待に応えようと腕は自然と動く。
このままでは、いつかきっと身体がダメになってしまう。その前に何とかして、漫画を完成させよう。

 

 

 

 ボクの夢は評価される漫画を描くことだ。
今日は、何とか時間を作って、東京にある出版編集部を訪れた。
「編集部の○○は先日退職したので、代わりの者を呼びますね」と言われた。
不安があった。焦燥があった。何よりも、視界が揺れ始めていた。

 

 

 

ボクの夢は今を何とか生きることだ。
今日は、いつも通りに家を出て、会社に出勤した。
ボクの描く物語は、誰にも認められない。ボクの能力は、この会社では必要とされていない。
改善策。妥協案。具体例。共感性。全て分からない。ボクには何も分からない。

 

 

 

ボクの夢は漫画家だ。
今日は、夜遅くに帰宅した。帰路に偶然会った友人と話をした。近況とか夢とか。
彼は、ボクの描いた漫画を面白いと言ってくれた。でも、それでは足りない。
明日からまた仕事が始まる。シャワーを伝う温水がどこかしょっぱく感じた。

 

 

 

ボクの夢は誰かを幸せにすることが出来るのだろうか。
日記を書いているこの瞬間がとても辛く苦しい。
少し……少しだけ、日記を書くことを休もう。
――それでもボクには夢がある。

 

 

ABOUT ME
文月万次郎
文月万次郎
東京都国立市出身。バリバリの24歳。若者向けの小説やコラムを書いていきます。座右の銘「強さとは己が弱さを知ることである」。
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